会計事務所博覧会2025レポート(1日目)

年に一度の業界最大級のイベント『会計事務所博覧会2025』に参加するため、東京へ向かいました。当日は早朝一番の便で現地へ。上空からは雄大な富士山を望むことができ、これから始まる新たな学びへの期待に胸が膨らみました。

日中は過ごしやすい曇り空の下、会場は多くの来場者で賑わいを見せていましたが、夕刻には天候が急変。東京では局地的な豪雨が報じられるなど、不安定な空模様となりました。幸いにも会場周辺に大きな影響はありませんでしたが、改めて自然の力の大きさを感じる一日ともなりました。被害に遭われた方々にはお見舞いを申し上げます。

そのような状況下でも、会場内は終始活気に満ち溢れており、私どもも業界の最先端の動向について多くの知見を得ることができました。今回の博覧会で特に印象に残ったイベントの概略をご報告いたします。


AI時代を勝ち抜く会計事務所の未来戦略1日のテーマ?
迫る「KSK2」と「生成AI」に完全対応し、「人が辞めない」最強組織を築く方法

2025年、会計業界は「テクノロジーの劇的な進化」と「深刻な人材問題」という、二つの大きな変革の波に直面しています。国税庁は次世代システム「KSK2」とAIを駆使した税務調査の高度化を推し進め、私たちの業務に直接的な影響を与えようとしています。一方で、「生成AI」は、正しく使えば業務を劇的に効率化する可能性を秘めた、強力な武器にもなり得ます。しかし、どれだけテクノロジーが進化しても、会計事務所の価値の源泉は「人」であることに変わりはありません。業界の平均離職率が30%に迫る中、いかにして優秀な人材を惹きつけ、成長を支援し、定着してもらうか。この組織課題の解決なくして、未来を勝ち抜くことはできません。

税務調査の未来予測!次世代システム「KSK2」にどう備えるか?

「AI税務調査」は、もはや遠い未来の話ではありません。国税庁はデータ活用推進計画の最終段階に入っており、その中核となるのが次世代基幹システム「KSK2」と、新たな調査ツール「GSS」です。

KSK2とGSSがもたらす変化

  • KSK2(次世代国税総合管理システム): 2026年(令和8年)9月に本格稼働予定。これまで税目ごとに縦割りだったデータベースが統合され、法人とその役員個人の課税情報などを紐づけた、横断的で高度なデータ分析が可能になります。この統合データベースを基盤に、AIがリスクを自動分析します。
  • GSS(ガバメントソリューションサービス): 2026年度から本格活用。Web会議システムやオンラインストレージを利用し、調査の事前準備から面談、データ授受までをデジタル化します。

これにより、調査官の経験則に頼っていた調査対象の選定は、AI主導へと大きくシフトします。既に、法人税調査ツール「YUI」や相続税調査ツール「LIN」といったAIが、申告データから不整合や名義株の問題などを自動で抽出し始めています。

AI税務調査の本格化という潮流に、私たちはどう向き合うか

 

AIによる税務調査の高度化は、もはや避けられない潮流です。この変化に対し、私たちは従来の経験則だけに頼るのではなく、新たな視点を持って戦略的に対応していく必要があります。

例えば、税務署からの簡易な「お尋ね」一つとっても、その背景にAIによる分析がある可能性を念頭に置くべきでしょう。初期段階での丁寧な対応がその後の展開を大きく左右することも考えられ、軽微な照会と捉えず、クライアントと密に連携する感度がこれまで以上に求められます。また、調査の現場では、事前に電子データの提出が求められるなど、手法の効率化も進んでいます。このような変化に対し、ただ受け身で対応するだけでなく、対話を通じてクライアントの負担を最小限に抑えるための柔軟な姿勢も、今後は重要になってくるかもしれません。

そして何より、こうした変化の根底にあるのは「申告データの質」です。AIは、人間が見落としがちなデータ間の不整合を鋭く指摘します。日々の業務を通じてクライアントのデータ精度を高める地道な支援を行うことこそが、変化の時代における最も本質的な備えと言えるのではないでしょうか。


明日から業務が変わる!会計事務所のための「生成AI」実践活用術

国税庁がAIで武装する以上、私たちもAIを使いこなし、理論武装と生産性向上を図る必要があります。多くの事務所が「使い方がわからない」「セキュリティが不安」といった壁に直面していますが、ポイントを押さえれば、明日からでも安全に活用を始められます。

最重要!鉄壁のセキュリティ対策「オプトアウト設定」

生成AI活用の大前提は、入力した情報をAIの学習データとして使わせない「オプトアウト設定」を全職員で徹底することです。ChatGPTやGoogle Geminiなど、信頼できる事業者のツールはこの設定が可能です。逆に、この設定ができないツールで顧問先の情報を扱うのは絶対に避けるべきです。事務所として利用ツールを定め、この設定を必須ルールとしてください。

「専用ボット」で業務効率を最大化する

生成AIの真価は、単発のプロンプト(指示文)入力ではなく、事務所独自の業務に特化した「専用ボット(GPTs)」を作成・共有することで発揮されます。プログラミング知識は不要で、ChatGPTの有料プラン(月額20ドル程度、事務所で1契約あれば共有可能)を使えば、わずか5分で作成できます。

  • 活用例①:会計事務所専用 税務アシスタントボット顧問先からの税務相談メールをコピー&ペーストするだけで、「要点サマリー」「詳細解説」「実務上の注意点」といった形式で、精度の高い回答案を即座に生成。さらにワンクリックで、そのまま送れる返信メール文案まで作成してくれます。
  • 活用例②:社内Q&Aボット就業規則や記帳マニュアルを読み込ませておけば、職員が総務担当者や上司に質問する手間が省け、自己解決が促進されます。これにより、質問する側・される側双方の生産性が向上します。

まずは、「事務所内で一番時間がかかっている定型業務」「マニュアルが整備されている業務」からボット化に着手するのが、効果を実感しやすい最適な一歩です。なお、領収書動画からの「記帳の完全自動化」は、勘定科目の判断精度がまだ課題であり、現時点では「文書作成」「要約」「資料作成」から始めるのが現実的です。


AI時代の競争力の源泉は「人」にある

KSK2や生成AIへの対応は必須ですが、それだけでは未来の会計事務所は作れません。テクノロジーがコモディティ化する時代だからこそ、組織文化や人材こそが、他社との絶対的な差別化要因となります。

「理念浸透」を絵に描いた餅にしない仕組み

離職の大きな原因は「事務所の方向性とのミスマッチ」です。これを防ぐには、事務所が何を大切にするかという「理念」や「価値観(MVVC)」を明確に言語化し、それをあらゆる活動の軸に据えることが不可欠です。

  • 評価制度への組み込み: 「理念に基づいた行動ができたか」を360度評価の項目にしたり、クレド(信条)の実践度のみで評価を決定したりする。
  • 日常業務との連動: 顧問契約書に「担当者が明るく元気な挨拶をしなければ顧問料を返金します」と明記し、理念が顧客との約束事であることを示す。
  • 文化の醸成: 全社員の投票で最も理念を体現した社員を「クレド大賞」として表彰し、理念の実践が称賛される文化を育む。

未来を創る会計事務所を感じた視点

会計業界を取り巻く環境は、かつてないスピードで変化しています。この時代を勝ち抜くために必要なのは、2つの車輪を同時に回すことです。

一つは、「KSK2」や「生成AI」といった外部環境の変化にテクノロジーで適応する力。税務調査の未来を的確に予測し、生成AIを安全かつ効果的に活用して生産性を向上させる。

もう一つは、揺るぎない「理念」を核に、社員一人ひとりの成長を支援する内部環境を強化する力。自社の価値観を明確に示し、それに共感する仲間が集い、共に成長できる文化を育む。

この両輪を力強く回すことこそが、AI時代における会計事務所の真の競争力となるのではないでしょうか。まずは、事務所の価値観を改めて言語化し、明日から試せる生成AIの活用から始めてみませんか。

来週は、2日目をお伝えできればと思います。